基本分類
- 和名
- ニホンジカ(形態・分布によりエゾシカ、ホンシュウジカ、キュウシュウジカ、マゲシカ、ヤクシカ、ケラマジカの6亜種に分類されることが比較的広く知られている)
- 学名
- Cervus nippon
- 分類
- 哺乳綱 鯨偶蹄目(偶蹄目とする文献もあり) シカ科 シカ属
- 狩猟鳥獣としての区分
- 獣類。 鳥獣保護管理法上の狩猟鳥獣。 イノシシとともに生息数増加・被害深刻化を理由に「指定管理鳥獣」に指定され、集中的な捕獲強化の対象となっている。
生態
- 分布
- 北海道から本州、四国、九州および周辺の島々に広く分布する。 分布域は近年急速に拡大しており、1978年から2014年までの36年間で分布メッシュ数が約2.46倍に拡大したことが環境省の調査で示されている。 特に北海道・東北地方、北陸地方で拡大が顕著である。 令和4年度末時点で、本州以南のニホンジカの推定個体数は中央値で約246万頭(90%信用区間 約216万〜305万頭)とされる。
- 生息環境
- 森林(冷温帯から亜熱帯まで)を中心に、里山・農地周辺、高山帯から低地まで幅広い環境に適応している。
- 体サイズ
- オス:体長90〜190cm、肩高70〜130cm、体重50〜130kg程度(地域個体群により変動が大きい)。 メス:体長90〜150cm、肩高60〜110cm、体重25〜80kg程度。 日本産動物としてはベルクマンの法則(同種でも寒冷地の個体ほど大型化する傾向)が顕著に表れることで知られ、北方の個体群(エゾシカ等)は大型化し、南方の個体群は小型化する傾向がある。
- 活動時間
- 日の出・日の入り前後の時間帯に活発になる、いわゆる薄明薄暮性であるとみられている。 また、狩猟・捕獲圧が高まった地域では、活動リズムを夜行性寄りに変化させる傾向が指摘されている。
- 食性
- 植物質を中心とする草食性(強い植物食性を示す雑食性とする整理もある)。 イネ科の草本、ササ類の葉、樹木の葉、堅果、樹皮などを食べ、落葉広葉樹林ではイネ科草本や堅果を、常緑広葉樹林では周年木の葉を食べる傾向がある。 積雪が深い時期には地表の植物が採食できず、樹皮などを食べることが報告されている。
- 行動特性
- 基本的に雌雄別々に群れを形成する。 メスの群れは母系集団で、群れの中で生まれたメスとその母親などの血縁個体で構成される。 オスは生後1〜2年で母親の群れから独立し、生後2年以上のオスはオスだけの群れを形成するか単独で行動する。 繁殖期(9月下旬〜11月)には、優位なオスがメスの行動圏内になわばりを形成し、複数のメスを囲い込む一夫多妻型(ハーレム)の交尾システムをとる。 奈良公園での調査では優位オスの割合は生後5年以上のオスの約20%とされ、性別・年齢・血縁によって群れ構成が明確に分かれる高度な社会性を持つ点が特徴である。 警戒心は高く、危険を感じると尻の白い毛(尻斑)を大きく広げて逆立て、群れの仲間に警戒信号を送る。 妊娠期間は約230日で、5月下旬から7月下旬にかけて1頭の幼獣を出産する。 積雪の多い地域では冬季に南向き斜面や常緑林の多い越冬地へ集結する行動が報告されている。
狩猟情報
- 猟期
- 全国標準の狩猟期間は11月15日から翌年2月15日まで。 イノシシと同様、第二種特定鳥獣管理計画に基づき猟期を延長している都道府県が多数ある。 個体数調整のためメスの捕獲上限を緩和・撤廃する動きが複数の都道府県で見られる(例:京都府では平成23年11月〜平成29年3月の告示で、オスジカの銃猟は1人1日1頭上限を維持する一方、メスジカ・わな猟の頭数上限を撤廃した)。 猟期・捕獲規制は都道府県により異なるため必ず自治体の最新情報を確認すること。
- 主な猟法
- 銃猟(装薬銃・ライフル銃等。 3発以上の実包を装填できる弾倉を持つ散弾銃の使用は禁止)およびわな猟(くくりわな等。 輪の直径や締付け防止金具の装着など法定の規格基準があり、一部地域では規制が緩和されている)が中心。 網猟は主に鳥類を対象とする猟法であり、シカの捕獲実務では一般的ではない。
判別ポイント
ニホンカモシカとの違い(狩猟対象外・保護種のため誤認に厳重注意): 分類はニホンジカがシカ科、ニホンカモシカはウシ科(ヤギ・ヒツジに近縁)。 角はニホンジカがオスのみで枝分かれし毎年生え変わるのに対し、ニホンカモシカは雌雄とも短く後方に伸び生え変わらない。 体色はニホンジカが茶色(夏毛に白斑)、ニホンカモシカは白色〜灰褐色。 体格はニホンジカが中〜大型(オス体長90〜190cm)なのに対し、ニホンカモシカは小型(オス体長110cm程度)でずんぐりしている。 社会性もニホンジカが群れ性(一夫多妻)であるのに対し、ニホンカモシカは単独性(一夫一妻・縄張り制)と大きく異なる。 ニホンカモシカは特別天然記念物で捕獲が原則禁止されており、免許試験でも重要な論点である。
人との関わり
- 農林業・生活被害
- 農林水産省の発表によれば、令和6年度における全国のシカによる農作物被害額は79億円で、前年度から9.0億円増加した。 シカは主要な鳥獣被害種の中でも最大規模の被害額を計上している。 あわせて、樹皮剥ぎによる森林被害、下層植生の消失、土壌浸食、高山植物など希少な植物種の消失といった生態系への影響も報告されている。
- 利用
- 農林水産省「野生鳥獣資源利用実態調査」令和5年度確報によれば、食肉処理施設によるジビエ利用量は2,729トン(前年度比+30.9%)、このうち食肉として販売された数量は1,731トン(+30.0%)で、鳥獣種別ではシカが1,184トン(+35.9%)と最大のシェアを占める。 低カロリー・高タンパクな食材として近年利用が拡大している。
- 豆知識
- オスの角は毎年生え変わる。 春先に古い角が自然に脱落し、初夏にかけて皮膚に覆われた柔らかい「袋角」として再生し、成長とともに枝分かれが増えていく。 日本国内だけでエゾシカ、ホンシュウジカ、キュウシュウジカ、マゲシカ、ヤクシカ、ケラマジカの6亜種に分類されるなど、地域による体格差・形態差が大きい種である。
出典
- 環境省「狩猟鳥獣の法的な定義等」参考資料1(取得日: 2026-07-04)
- 環境省「ニホンジカの近年の動向」(取得日: 2026-07-04)
- 環境省「全国のニホンジカ及びイノシシの個体数推定等の結果について」(取得日: 2026-07-04)
- ウィキペディア「ニホンジカ」(取得日: 2026-07-04)
- 京都府法規集「ニホンジカの捕獲制限の一部解除」(取得日: 2026-07-04)
- 環境省「狩猟鳥獣の保護を目的とした狩猟期間の制限、捕獲規制及び猟法の制限」参考資料2(取得日: 2026-07-04)
- 農林水産省「全国の野生鳥獣による農作物被害状況について」(取得日: 2026-07-04)
- 農林水産省「野生鳥獣資源利用実態調査」令和5年度確報(取得日: 2026-07-04)
猟期・捕獲規制・都道府県独自ルールは変更される可能性があります。実際の狩猟にあたっては必ず対象都道府県の最新の公式情報をご確認ください。
ニホンジカによる被害は野生鳥獣被害の中で最も深刻で、全国の被害総額約164億円のうち約70億円(全体の43%)を占めています。 農業面では、水稲、野菜類、果樹など広範な農作物への食害が発生しており、特に山間部の農地では収穫期の作物が一晩で壊滅的な被害を受けることもあります。イモ類、豆類、果樹の新芽や果実への食害が深刻で、農家の経営に大きな打撃を与えています。 林業面での被害も極めて深刻です。植林した苗木への食害、樹皮剥ぎによる成木の枯死が広範囲で発生し、森林再生を大きく阻害しています。特に針葉樹の樹皮剥ぎは木材価値を著しく低下させ、数十年かけて育てた森林資源が台無しになることもあります。 さらに生態系への影響も深刻で、高密度化したシカによる下層植生の消失は、土壌流出や他の野生動物の生息環境悪化を招いています。近年は都市近郊への出没も増加しており、交通事故や住宅地での食害も社会問題となっています。

