基本分類
- 和名
- イノシシ(本州・四国・九州に分布する亜種はニホンイノシシ)
- 学名
- Sus scrofa(日本産亜種:ニホンイノシシ Sus scrofa leucomystax。南西諸島に分布するリュウキュウイノシシ Sus scrofa riukiuanus は別亜種)
- 分類
- 哺乳綱 鯨偶蹄目(偶蹄目とする文献もあり) イノシシ科 イノシシ属
- 狩猟鳥獣としての区分
- 獣類。 鳥獣保護管理法上の狩猟鳥獣。 ニホンジカとともに生息数増加・被害深刻化を理由に「指定管理鳥獣」に指定され、集中的な捕獲強化の対象となっている。 市街地等への出没時には市町村等が銃猟を行える緊急銃猟制度の対象となる「危険鳥獣」にも該当する。
生態
- 分布
- ニホンイノシシは西日本を中心に本州・四国・九州に広く分布する。 かつては青森県下北半島まで生息した記録があるが、積雪への不適応などから北海道には自然分布していない。 昭和53(1978)年度から平成30(2018)年度までの40年間で分布域は約1.9倍に拡大しており、特に東北・関東・北陸地方での拡大が顕著である。 南西諸島には別亜種のリュウキュウイノシシ(ニホンイノシシよりかなり小型)が分布する。 令和4年度末の推定個体数は中央値で約78万頭(90%信用区間 約58〜105万頭)とされる。
- 生息環境
- 森林から農地周辺、里山にかけて広く生息し、近年は都市近郊や市街地への出没も報告されている。 湿地・水辺の泥浴び場(ぬた場)を利用することも知られている。
- 体サイズ
- 体長100〜170cm・体重75〜180kg程度とする整理や、オス体長110〜170cm・メス体長100〜150cm、体重80〜190kg程度とする整理があり、岐阜市では約220kgの捕獲例も報告されている。 数値には出典間で幅があるが、体色は黒褐色から赤褐色で、生まれたばかりの幼獣には白またはベージュ色の縞模様があり「ウリ坊」と呼ばれる点は各出典で共通する。 一般にオスの方がメスより大きい。
- 活動時間
- 本来は昼行性の動物とされるが、人間の活動が多い地域では夜行性・薄明薄暮性へと活動時間帯を移行させる高い可塑性が報告されている。 人に慣れて警戒心が低下した個体は、日中でも姿を見せるようになる。
- 食性
- 雑食性だが、木登りができないため地上・地下部の食物を利用する。 植物の地下茎(根・球根)が主食とされ、秋冬にはドングリも重要な餌となる。 鼻先で土を掘り返す「ほじくり」採食行動が特徴的で、これが農地被害の直接的な原因になっている。
- 行動特性
- メスの成獣(母親)とその幼獣・姉妹などで構成される10頭未満の家族群(母系群)を基本単位として行動し、この家族群は定住性が高い。 オスは生後1年ほどで群れを離れて単独生活に入り、若いオス同士で一時的に群れをなすこともあるが、成熟後は基本的に単独で行動する。 本来は臆病で警戒心が強く人を避ける傾向があるが、餌付け等により警戒心が低下すると大胆化し、日中の市街地侵入や人への接近・威嚇行動につながることが繰り返し報告されている。 興奮した際や追い詰められた際には攻撃的になることも知られる。 妊娠期間は約4ヶ月で繁殖期は12月頃から約2ヶ月間、通常年1回、4〜5頭前後を出産する。 捕獲を埋め合わせる強力な繁殖力を持つ点が特徴で、狩猟・有害鳥獣駆除で多数が捕獲されても個体数が急減しにくい要因とされる。 行動圏は季節により変動するが2〜3km²程度と比較的狭いものの、一晩の移動距離は数kmから十数kmに及ぶこともある。
狩猟情報
- 猟期
- 全国標準の狩猟期間は11月15日から翌年2月15日まで。 ニホンジカと同様、第二種特定鳥獣管理計画に基づき猟期を延長している都道府県が多数ある(例:石川県では狩猟期間を11月1日から翌年3月31日までに延長)。 猟期・規制は都道府県により異なるため必ず自治体の最新情報を確認すること。
- 主な猟法
- 銃猟(装薬銃・ライフル銃等。 3発以上の実包を装填できる弾倉を持つ散弾銃や口径5.9mm以下の小口径ライフル銃の使用は禁止)およびわな猟(くくりわな等)が中心。 くくりわなは、輪の直径が12cmを超えるもの、締付け防止金具が装着されていないもの等の使用が全国標準として禁止されているが、都道府県によっては規制を緩和する特例がある(例:茨城県では輪の直径12cm以上のくくりわなも使用可能)。 ヒグマ・ツキノワグマとは異なり、イノシシの捕獲にわな猟を用いることは通常認められている。
判別ポイント
幼獣「ウリ坊」の識別: 生後およそ6ヶ月頃までの幼獣は背中に縞模様(保護色)があり「ウリ坊」と呼ばれ、成長とともに完全に消失する。 ウリ坊を見かけても近くに母イノシシがいる可能性が高いため、近づく・追いかける・餌を与える行為は母イノシシによる攻撃のリスクを高めるだけでなく、野生動物の人への警戒心低下を招くため厳に慎むべきとされる。 イノブタ(イノシシとブタの交雑種)との識別: 野生化したイノブタは外見上イノシシと見分けがつかないほど酷似する場合があるが、繁殖特性が大きく異なり、イノシシの繁殖期が年1回であるのに対しイノブタは年中繁殖が可能で繁殖力はイノシシの約5倍とされる。 外見だけでの判別は非常に困難であり、狩猟の現場でイノブタと思われる個体に遭遇した場合の法的な取り扱いは資料により見解が分かれ、自治体への確認を要する。
人との関わり
- 農林業・生活被害
- 令和6年度における全国のイノシシによる農作物被害額は45億円で、前年度から8.2億円増加した。 同年度の野生鳥獣による農作物被害総額は188億円で、シカ(79億円)に次いでイノシシが2番目に大きな被害を及ぼす鳥獣種となっている。 また、イノシシは家畜伝染病である豚熱(CSF)の感染確認・拡大防止の観点からも重要な対策対象であり、感染確認区域で捕獲された個体のジビエ利用は原則として自家消費のみとし、市場流通や譲渡を行わないことが求められている。
- 利用
- 農林水産省「野生鳥獣資源利用実態調査」令和5年度確報によれば、食肉として販売された数量は全体で1,731トン(前年度比+30.0%)のうちイノシシは511トン(+15.6%)、解体頭数は3万9,918頭(+10.6%)であった。 低脂肪・高タンパクな食材として「ぼたん鍋」などの食文化で古くから利用されている。
- 豆知識
- イノシシ肉が「ぼたん肉」と呼ばれるのは、皿に盛り付けた際の見た目が牡丹の花に似ていることに由来するとされる。 幼獣の縞模様「ウリ坊」の名は縞瓜(しまうり)に似ていることに由来するとされる。
出典
- 農林水産省「全国の野生鳥獣による農作物被害状況について」(取得日: 2026-07-04)
- 環境省「全国のニホンジカ及びイノシシの個体数推定等の結果について」(取得日: 2026-07-04)
- 環境省「特定鳥獣保護管理計画作成のためのガイドライン(イノシシ編)」(取得日: 2026-07-04)
- ウィキペディア「イノシシ」(取得日: 2026-07-04)
- 農研機構「捕獲を埋め合わす強力な繁殖力」(取得日: 2026-07-04)
- 農林水産省「豚熱(CSF)について」(取得日: 2026-07-04)
- 農林水産省「野生鳥獣資源利用実態調査」令和5年度確報(取得日: 2026-07-04)
猟期・捕獲規制・都道府県独自ルールは変更される可能性があります。実際の狩猟にあたっては必ず対象都道府県の最新の公式情報をご確認ください。
イノシシによる被害は野生鳥獣被害の中でニホンジカに次いで深刻で、全国の被害総額約164億円のうち約36億円(全体の22%)を占めています。 農業面での被害は極めて特徴的です。イモ類(サツマイモ、ジャガイモ等)、根菜類(ダイコン、ニンジン等)、水稲への食害が主な被害で、特に鼻で地面を掘り返す習性により、田畑が一晩で壊滅的な状態に追い込まれることがあります。また、トウモロコシ、豆類、果樹への被害も深刻で、収穫期の農作物が根こそぎ荒らされる被害が後を絶ちません。 被害の特徴として、群れで行動することが多く、一度侵入を許すと広範囲の農地が連続的に被害を受けます。夜行性のため夜間に被害が集中し、農家が対策を講じることが困難な状況です。また、電気柵などの防護設備を破壊する力を持つため、被害防止には継続的な投資と管理が必要となります。 近年は西日本を中心に生息数が急増しており、従来イノシシがいなかった地域への分布拡大も進んでいます。都市近郊への出没も増加し、住宅地での農作物被害、ペットへの危害、人身事故のリスクも高まっています。積雪地帯への進出により、被害地域は年々拡大傾向にあります。

