基本分類
- 和名
- ハシブトガラス(嘴太烏)
- 学名
- Corvus macrorhynchos
- 分類
- 鳥綱 スズメ目 カラス科 カラス属(本州以南の代表的な亜種はC. m. japonensis)
- 狩猟鳥獣としての区分
- 鳥類。 環境省が指定する狩猟鳥獣46種の1種で、カラス属ではハシボソガラス・ミヤマガラスとともに3種すべてが指定されている。
生態
- 分布
- 日本には小笠原諸島を除き全国に留鳥として分布し、低地から山地(本州中部では標高約2,500m前後)まで生息する。 世界的にはインドから日本にかけてのアジア南部・東部に分布し、海を越える大規模な渡りはほとんど行わない。
- 生息環境
- 英名(Jungle Crow)の通り本来は森林性の種で、樹上採食・樹上営巣を基本とする。 ハシボソガラスが開けた農耕地・草原を好むのと対照的である。 近年は都市部(市街地・繁華街)への進出が著しく、環境省のカラス対策マニュアルは「都会にある森林に似た構造(電柱・アンテナを樹木に、生ごみを地上の食物に見立てる)を巧みに利用している」と分析している。 東京都区部では都心から山地までくまなく繁殖する一方、ハシボソガラスは都心と山地を除く平地に限られる。
- 体サイズ
- 全長約56〜57cm、体重約550〜750g(福岡県の公的資料)。 太く上に大きく湾曲した嘴、丸みを帯びて段差状に出っ張った額が特徴。 ハシボソガラス(全長約50cm、体重約400〜600g)より約1割大きい。
- 活動時間
- 昼行性。 樹上(都市部では電柱・アンテナ)にとまって食物を探し、舞い降りて採食する。 早朝の活動性が高く、前夜から出された生ごみを早起きして漁ることが被害要因として指摘されている。
- 食性
- 雑食性。 1957年の全国胃内容物調査では植物質88%(うち樹木の種子52%、農作物45%)・昆虫7%・その他動物質5%で、農作物中心のハシボソガラスに比べ樹木の種子(森林由来)を好み、より肉食(動物質・死骸食)傾向が強いとされた。 都市部では生ごみ・残飯・ペットフードなど人為的な食物資源への依存度が非常に高い。
- 行動特性
- つがいは一年中直径数百m規模の縄張りを維持し、縄張りを持たない若鳥・非繁殖個体は群れを形成する。 群れは秋冬に顕著となり、ねぐらは数十羽〜数千羽規模(東京都心では1,500羽規模のねぐらの例)。 環境省マニュアルは「本来警戒心の強いハシブトガラスが、生ごみをあさっても人に追い払われないことを学習し、人を恐れなくなった」という人慣れの形成過程を記述しており、「地方の個体はかなりの距離を置いて逃げるが、都会では手の届くような距離まで近づく」という対比も明記されている。 繁殖期(3〜7月、特に5〜7月)には営巣木へ近づく人などに対し、注視→鳴きながら旋回→枝をつつく→背後からの低空飛行、と段階的に威嚇・攻撃するヒナの防衛行動が知られる。 食物を樹木の穴や雨樋・室外機の陰・植木鉢・電柱の変圧器など人工構造物に隠す貯食行動も特徴的。
狩猟情報
- 猟期
- 全国標準は11月15日〜2月15日、北海道は10月1日〜1月31日とされる。 ハシブトガラスに固有の性別制限や地域限定の捕獲禁止規定は確認できなかった。 猟期・規制は都道府県により異なるため必ず自治体の最新情報を確認してください。
- 主な猟法
- 銃猟が中心。 都市部のカラス問題は狩猟よりも自治体の許可に基づく「有害鳥獣捕獲」(大型のクロウトラップ等)の枠組みで対応されることが多く、これは狩猟とは制度上別枠である。
判別ポイント
ハシボソガラスとの判別が最重要。 額の出っ張りが最も確実なポイントで、ハシブトガラスは嘴の付け根から額にかけて段差状に大きく出っ張る(丸みを帯びる)のに対し、ハシボソガラスは嘴から額のラインがなだらか。 嘴も、ハシブトガラスは太く上に大きく湾曲し、ハシボソガラスは細くカーブが緩やか。 鳴き声はハシブトガラスが「カア、カア」と澄んだ声、ハシボソガラスは「ガア、ガア」と濁った声で、澄んだ声で鳴いていればハシブトガラスとみてまず間違いない。 鳴く際の姿勢も、ハシブトガラスは体を水平〜斜めに保ち頭を上下させるのに対し、ハシボソガラスは頭を前後に振りお辞儀をするように全身で鳴く。 移動方法は、ハシブトガラスが両足をそろえたホッピングが基本で、ハシボソガラスは左右の足を交互に出すウォーキングが中心。 生息環境はハシブトガラスが市街地・森林(都市部で近年増加が顕著)、ハシボソガラスは農地・草地・郊外に多い傾向があるが、同所的に見られることも多く環境だけでの断定は避ける。 冬鳥のミヤマガラスとは、成鳥の嘴基部が白っぽく裸出し冬季に大群を作る点で区別できる。 非狩猟鳥獣のコクマルガラス・カササギとの誤認捕獲にも注意する。
人との関わり
- 農林業・生活被害
- 東京都は平成13年度(2001年)末から都市部を中心にカラス対策に着手した。 都の資料によれば、都内のカラス生息数は対策開始前(2001年)で約36,400羽と推計され、苦情件数も平成10年度511件から平成13年度(7月まで)2,939件へ急増していた。 対策開始後、東京都環境局は生息数が対策開始前比で約80%減少、苦情・相談件数が約93%減少、累計捕獲数が約26万羽に達したと報告している。 被害の中心は「ごみを散らかす」「騒音」で、半透明ごみ袋・収集前の早出し・防鳥ネットの不徹底が原因として指摘されている。 針金ハンガーを巣材に使った営巣が電柱・変電設備でショートを起こし停電の原因となる例も報告されている。 農林水産省統計では、ハシブトガラス・ハシボソガラス等を合算した「カラス」区分の令和6年度全国農作物被害額が約13億6,400万円(鳥類被害額全体の約44%)とされているが、ハシブトガラス単独の内訳は特定できない。
- 利用
- 一般的な食用利用は行われていない。 2023年にカラス肉の生食が話題になった際、厚生労働省が野鳥肉の生食の危険性(食中毒・寄生虫感染リスク)について注意喚起を行った。 ごく一部の店が加熱調理で提供する例はあるが、食文化として定着してはいない。
- 豆知識
- 日本神話の三本足の霊鳥「八咫烏(やたがらす)」は日本サッカー協会のシンボルマークとして採用されている。 都市の「カラス」の多くは本種で、ビル街を森林の断崖に見立てて営巣・ねぐらとし、電柱・アンテナを樹木代わりに利用する。
出典
- 環境省「自治体担当者のためのカラス対策マニュアル」(2001年)(取得日: 2026-07-04)
- 環境省「狩猟制度の概要」(取得日: 2026-07-04)
- 東京都環境局「カラスに関するQ&A よくあるご質問」(取得日: 2026-07-04)
- 東京都環境局「生息数等の推移(取組状況)」(取得日: 2026-07-04)
- 環境省 生物多様性センター「鳥類アトラスWEB版 ハシブトガラス」(取得日: 2026-07-04)
- 福岡県 生物多様性情報総合プラットフォーム「ハシブトガラス」(取得日: 2026-07-04)
- 農林水産省「全国の野生鳥獣による農作物被害状況(令和6年度)」別添1(取得日: 2026-07-04)
猟期・捕獲規制・都道府県独自ルールは変更される可能性があります。実際の狩猟にあたっては必ず対象都道府県の最新の公式情報をご確認ください。
カラス類(ミヤマガラス、ハシブトガラス、ハシボソガラス)による農業被害は、鳥類被害の中で最も深刻で、鳥類被害総額約27億円のうち約13億円(鳥類被害の約50%)を占めています。 農業面では、果樹類(ブドウ、スイカ、メロン、トマト等)への食害が特に深刻で、果実をつついて食べるだけでなく、商品価値を損なうため経済的損失が大きくなります。また、トウモロコシなどの穀物への食害、水稲の種籾掘り起こし、野菜の新芽への被害も全国的に発生しています。 カラス類の被害対策が困難な理由は、その高い知能と学習能力にあります。防鳥ネットや音響装置などの対策にすぐに慣れてしまい、効果が長続きしないことが問題です。また、早朝から活動を開始するため、農作物が熟す時期には収穫前に食害を受けることが多く、農家の労力が無駄になってしまいます。 都市部では生活被害も深刻で、ゴミ集積所を荒らして散乱させる、電線や建物での騒音・糞害、農作業や通行人への威嚇行為なども問題となっています。特に繁殖期には攻撃性が高まり、人身への危害も報告されています。全国的に分布し、農村部から都市部まで幅広い地域で被害が発生しているため、総合的な対策が求められています。

